平天下の日記

平天下と言います。備忘録としてブログを始めてみました。

映画:ダウンタウンヒーローズの感想

 

映画のポスター

この映画は主に旧制高等学校の生徒が如何に考え、行動し、そして一年という短い年月の中で学生たちが変化していく様子を描いた作品だ。この映画が上映されたのは1988年、即ち丁度映画の設定年代の40年後に当たる。非常に当時の様子が分かりやすく描かれており、デカンショ節や学祭そして校舎の様子はリアリティを帯びている。2022年現在の40年前と言えば中曽根内閣発足やロッキード事件等が記憶に新しい。当時この映画を見た人々は懐かしさを感じると同時に、自身の青春時代を思い出すトリガーとなったことは容易に想像がつく。映画自体は一見すると恋愛映画の様に捉えることが出来、オンケル・浩介・房子、アルル・咲子の関係に見いだせる。しかしながら、恋愛はこの映画においては一断面に過ぎない。この映画において最も重要なことは1980年代後半、バブル景気により未曽有の好景気を迎えていた日本に対するアンチテーゼ的な側面を持っていたということだ。常に空腹で恵まれてはいない状態であるにも拘わらず、希望に満ち満ちていた時代がたった40年前にあったということを示したかったのではなかろうか。そして映画の後半で教師が放った言葉が痛烈に1980年代当時の状況を批判している。彼曰はく「君たちが社会に出る頃にはアメリカのコントロールによって日本の生産力は回復し食糧難も解決するだろう。その時に考えて欲しいことは、飢餓感を埋められただけで日本人は幸せになれるだろうかということです。欲するものが全て手に入りそうなときは警戒せよ。肥えていく豚は幸運ではないという言葉がありますが、今の日本を動かしている大きな力が自由への強い憧れを奪って日本人を従順な羊の群れにしてしまうのではないかという不安を覚えるのです。」と。実際に今の日本国民は自由を当然の如く享受し、またそれを謳歌している。そして小中高大という大人により敷かれたレールの上に順当に乗ることが全てであると教育され、従順にそれを受け入れる。しかしながらそれだけでは日本人が更なる発展を遂げることはできないということをこの映画は表現しているのだ。活発な議論や自治の精神そして泥臭さといった「旧制高等学校らしさ」が重要なのであるということを示した作品なのではなかろうかと私は考えている。「旧制高等学校らしさ」とは突き詰めるとスティージョブズ氏が述べたstay hungry, stay foolish の言葉が明確に当てはまる。確かにこの映画の原作は著者の自伝的な小説という性格を帯びているため、多少美化しているところは否めない。だが脚色があるとしても、旧制高等学校を卒業した人間が後世に残した遺産は計り知れないものがあることもまた事実だ。私たちは偉大なる先人が残した遺産を無に帰さないためにも、常に貪欲かつ自由溌溂な精神であらねばならないとこの映画が問いかけていることに対して応えなければならないのである。